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ベラドンナの幸福論
いつものドラッグストアは、その日も変わらずまばらに人が出入りしていた。 緑のラインに白い文字の自動ドアを過ぎて、緋翔はヘアカラーの売り場に向かう。 日焼け止めと、保湿剤を左手に。 期間限定のシャン ...
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滲むベラドンナ
違和感は、態度よりも香りで伝わった。 緑茶に、強く残るカシスの匂い。 甘くて、どろりとした重たい匂いが、緋翔の脳に広がる。 それは泥の沼のように、ぐちゃりと、粘度の高い感情を滲ませた。 「誰かと、 ...
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人体実験 ― 二ヶ月目 ―
人体実験レポート 期間 2025/8/28~2025/10/29現在 【実験内容】 ・スクワット20回×2 ・プランク 20秒 ・スキンケア 朝夕2回 ・小顔ベルト 20分 ・水分(ゴボウ茶と麦茶) ...
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ベラドンナの指先
「ねぇ、鷹村君。 私思うの。 あの子は、あなたにふさわしくないって」 夕暮れの光を背に、その女性はそう告げた。 乾いた風が吹いて、その黒くて長い緩やかなウェーブが煙の様に広がる。 立ち止まったま ...
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ルピナスの味
緋翔はスマホを取り出すと、ただ「おはよう」とだけ打ち込んで、返事も待たずにそっとテーブルに置いた。 薄暗い部屋に、淡い色のカーテンが僅かに揺れている。 窓の外は暗い。 雨は上がり、わずかに雲の上 ...
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訪問
その夜も、ただパソコンに向かっていた。 試行錯誤しながら、文字を打っては消し、悩みながら画面と向き合う。 膝では愛猫が心地よさそうに寝息を立てている。 今日はそろそろ終わりにしようと思った矢先 ...
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クレマチスの朝
「わ、びしょびしょ」 そう言って、緋翔は足早にバスルームへ駆け込むと、大きなタオルを涼の頭にすっぽりとかぶせた。 がしがしと乱雑に拭くその腕を掴む。 細すぎず、骨の太さがわかるよな、白い腕。 涼 ...
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ぶつかりおじさん遭遇記
先日、スーパーでのこと。 普通に、買い物をしていた。 ちょうどお菓子コーナーで、選んでいた時 ―― ドン、と勢いよくぶつかられた。 端っこによっていたし、横には通れる隙間も十分ある。 私は思っ ...
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滲むラナンキュラス
教室の窓から見える空では、雲が足早に過ぎていく。 木々の隙間から見えるその奥に、うっすらと暗い雲がゆっくりと顔をのぞかせていた。 涼はその空を、何の感情もなくただ見つめる。 遠くで聞こえる教授の声 ...
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人体実験:1か月目
「成功」か「失敗」かの二択はもう疲れた。 だから私は、自分の体を実験台にすることにした。 私は昔から太っていた。 それこそ、恐らく小学生の時には普通よりもふくよかであったし、成人してからは ...