悠生 朔也

こんにちは、綴り手の悠生 朔也(ゆうき さくや)と申します。 日々の中でふと零れ落ちた感情や、 言葉になりきらなかった風景を、ひとつひとつ、そっとすくい上げています。 この場所では、そんな断片たちを形にして作られた物語たちを飾っています。 完成や正解ではなく、ただ「そこに在る」。 その静かな揺らぎを、誰かと分かち合えたら嬉しいです。

はじまりのアムネシア

 目の前には霧がかかっていた。  知らない街の、知らない石畳の道路。 青とも、灰色ともつかない色が、どこまでも続いている。 見上げても、真っ黒な空だけで、あたりには明かりもない。  だというのに、目の ...

アルストロメリアは夢を見ない

 五月の連休の中日は、穏やかな陽射しで溢れていた。  澄んだ青い空には、筆を横に引いたような薄い雲が、太陽の光を浴びて真っ白に伸びている。 遠くに見える大きなビルの窓ガラスがキラキラと輝き、人々で溢れ ...

揺れるラベンダー

 壁の時計が、六時を半分ほど過ぎたころ。 何も知らせてこなかった緋翔のスマホが、テーブルの上で小さく揺れた。 それは二回短く揺れると、すぐに静かになる。  緋翔は飲んでいた紅茶のマグカップを置くと、そ ...

ラベンダーの夜

 涼が大学二年の春頃の事、緋翔が夜中に居なくなる事が増えた。  一緒に夕飯を食べ、同じベッドに入って、一時間ほどたつと、緋翔は涼の顔をゆっくりとみて、静かに、その気配を消すようにして部屋を出ていく。 ...

雪割草の手をとって

 は、と吐く息が、冬の空にゆっくりと溶けていった。  木々の隙間を通る風はキンと冷えて、赤く染まった二人の頬を撫でていく。 緋翔はしっかりと黒のニット帽をかぶり、首には先日涼からもらったクリスマスプレ ...

売れないと言われても、手放せなかった物

2026/1/6    , ,

 年末に、【売れない文章】と言われて、それでも壊せなかった話。  正直にショックを受けて、真正面からぶち当たって、そのまま崩れ落ちる、というよりも目の前の道が崩されたような気持ちになった。  それまで ...

痛みのローズマリー《後編》

 道中、緋翔の様子はどこか少し、おかしかった。  お気に入りの音楽を口ずさんでいたと思ったら、ふと黙って、窓の外を眺める。 それからしばらく音楽と走行音だけの空間が続いて、また、思い出したように曲の途 ...

ルピナスの掌

 緋翔が涼に初めて髪の毛を染めてもらってから、数ヶ月が過ぎた。 あれから事件は発覚したニュースもなければ、これといった騒ぎにもなってもいなかった。  滞り続けている家賃に、大家がしびれを切らすタイミン ...

痛みのローズマリー 《前編》

「みてみて、涼!すっげぇ~!!」  緋翔はそう叫ぶと、バタバタとその両腕を揺らした。  オーバーサイズの薄い灰色のカーディガンが、その度にふわふわとその腕を滑る。 真っ白のTシャツから伸びる長い首には ...

理想の死の為に

2025/12/12    , , ,

 私は、人生の半分を【自己否定】に費やしてきた。  小さいころは「可愛いね」とか「将来が楽しみ」だなんて言われていた。  小学校の中半頃になると、私は太りはじめた。  同時に、「可愛い」という存在に憧 ...