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はじまりのアムネシア
目の前には霧がかかっていた。 知らない街の、知らない石畳の道路。 青とも、灰色ともつかない色が、どこまでも続いている。 見上げても、真っ黒な空だけで、あたりには明かりもない。 だというのに、目の ...
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アルストロメリアは夢を見ない
五月の連休の中日は、穏やかな陽射しで溢れていた。 澄んだ青い空には、筆を横に引いたような薄い雲が、太陽の光を浴びて真っ白に伸びている。 遠くに見える大きなビルの窓ガラスがキラキラと輝き、人々で溢れ ...
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揺れるラベンダー
壁の時計が、六時を半分ほど過ぎたころ。 何も知らせてこなかった緋翔のスマホが、テーブルの上で小さく揺れた。 それは二回短く揺れると、すぐに静かになる。 緋翔は飲んでいた紅茶のマグカップを置くと、そ ...
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ラベンダーの夜
涼が大学二年の春頃の事、緋翔が夜中に居なくなる事が増えた。 一緒に夕飯を食べ、同じベッドに入って、一時間ほどたつと、緋翔は涼の顔をゆっくりとみて、静かに、その気配を消すようにして部屋を出ていく。 ...
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雪割草の手をとって
は、と吐く息が、冬の空にゆっくりと溶けていった。 木々の隙間を通る風はキンと冷えて、赤く染まった二人の頬を撫でていく。 緋翔はしっかりと黒のニット帽をかぶり、首には先日涼からもらったクリスマスプレ ...
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売れないと言われても、手放せなかった物
年末に、【売れない文章】と言われて、それでも壊せなかった話。 正直にショックを受けて、真正面からぶち当たって、そのまま崩れ落ちる、というよりも目の前の道が崩されたような気持ちになった。 それまで ...
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痛みのローズマリー《後編》
道中、緋翔の様子はどこか少し、おかしかった。 お気に入りの音楽を口ずさんでいたと思ったら、ふと黙って、窓の外を眺める。 それからしばらく音楽と走行音だけの空間が続いて、また、思い出したように曲の途 ...
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ルピナスの掌
緋翔が涼に初めて髪の毛を染めてもらってから、数ヶ月が過ぎた。 あれから事件は発覚したニュースもなければ、これといった騒ぎにもなってもいなかった。 滞り続けている家賃に、大家がしびれを切らすタイミン ...
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痛みのローズマリー 《前編》
「みてみて、涼!すっげぇ~!!」 緋翔はそう叫ぶと、バタバタとその両腕を揺らした。 オーバーサイズの薄い灰色のカーディガンが、その度にふわふわとその腕を滑る。 真っ白のTシャツから伸びる長い首には ...
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理想の死の為に
私は、人生の半分を【自己否定】に費やしてきた。 小さいころは「可愛いね」とか「将来が楽しみ」だなんて言われていた。 小学校の中半頃になると、私は太りはじめた。 同時に、「可愛い」という存在に憧 ...